ハラスメントの中ではカスハラが一番厄介
カスタマーハラスメント(カスハラ)はお金を払っている客が優位に立つことで起こるパワハラの一種です。加害者が客なので厳しく接することが難しいということで、最も対処が難しいパワハラです。前回のコラムではカスハラは老害だと書きましたが、今回はカスハラ客に男性が多いことに目を向けてみました。
2023年7月14~16日、企業の危機管理を支援する「エス・ピー・ネットワーク」という会社がインターネットで、直近1年間にクレーム対応を行った経験のある男女20〜60歳代の会社員1030人に対して実態調査を行いました。結果の概要は以下の通りです。
・「カスハラを受けたことがある」と回答したのは64.5%であった。
・カスハラを「6回以上」受けたという人は10%を超えていた。
・カスハラを行ったのは、性別では男性が81.1%、女性が18.9%、年代別で40歳以上が 88.9%を占め、50歳以上では66.5%であった。
・カスハラ対策の方針がない企業は55.3%に上った。
・約70%の企業がカスハラ対策に課題を感じていた。 ・土下座の要求や3時間以上の拘束など厳しいカスハラ行為も多数発生していた。
具体的な事例としては、
・長時間居座る。スタッフ指名で電話してきて商品と関係ない話で1時間以上拘束。自宅 に来る。何度も同じ商品について連絡し拘束する。
・保証期間が過ぎているにもかかわらず、無償で交換や修理をさせる。
・毎日、「お前ら海に沈めてやる」などと電話。見知らぬ人から職場の前で見張られてい た。会社は、何かされるまでは対応できないと切り捨てられた。(サービス業(医療・介 護・薬事) ))
・「あなたみたいな中年で仕事ができない人は許せない」「顔がふざけてる」「真剣に謝 っていない」「自分のほうが良い大学に行っている」「大学に行ってもこんな会社に就 職したのか」と、3時間以上言われ続けた。
・理不尽な言いがかりで店内で騒ぎ、執拗に土下座を要求。料理もサービスも望んだレベ ルではないのでお金は払わないと主張する。(サービス業(その他))
・謝罪しても何度も同じように自宅に呼ばれ謝罪を要求される。解決と思われても、市や 県に苦情としてあげるので、また謝罪を重ねる。1年経っても同じ要求が続いているので 困っている。(サービス業(医療・介護・薬事))
事例を見ると、もはや恐喝という罪名の刑法犯に近いのではないかと思います。カスハラを行うのは男性が8割を占めますが、性差が大きいのは、男性が粗暴であるということの他に知能が関係しているように思います。研究報告によって少し違いがありますが、男性と女性の知能指数の分布は異なります。知能指数の平均値は男女でほぼ同じですが、女性は平均値近くに集まっているのに対して、男性はばらつきが大きく、知能の高い人が多いけれど低い人も非常に多いのです。
刑法犯も男性が8割を占めるのです。日本の刑務所ではCAPAS(IQ相当値だが従来の知能指数とは異なる)という能力検査を行って受刑者の知能指数を調べています。2021年の矯正統計調査によると、男性ではIQが70未満の知的障害者は19.9%(一般人は2%)、IQが70から84の境界知能者は34.1%(一般人は14%)でした。すなわち受刑者の8割が男性で半分以上が知能に問題があるということになります。
境界知能者は、学校では勉強ができなくて落ちこぼれることがありますが、社会に出れば知的障害者と違って一般人として生活できますので、知能が低いという認識を周囲の人は持ってはいないと思います。大学や専門学校に進学する人もいます。「ケーキの切れない非行少年たち(宮口幸治)」(新潮新書)によると、境界知能者の非行少年の特徴は以下の5点だそうです。
1)想像する力が弱いので、悪いことをしても反省できない。
2)感情を統制できない。キレやすい。
3)融通が利かないので、被害感が強い。
4)自己評価が不適切で、自分の事は棚に上げて他人の欠点ばかり指摘する。
5)対人スキルが乏しい。
非行少年の特徴ですが、カスハラ客にぴったり当てはまりますね。カスハラ客に男性が多いのもうなずけます。知能は正常だが「粗暴である」「性格が異常である」というカスハラ客もいますが、「知能が低い人が多い」と仮定すると、誠意を込めて謝罪や説得しても、言っていることを理解出来ていない可能性があります。回転ずしなどで迷惑行為を行う若者がいますが、おそらく知能が低いのでしょう。将来カスハラ客になる可能性大です。コミュニケーションを取るのが難しい人に対応するのはストレスが溜まり、時間の無駄です。では、このような人たちにどのように接したら良いのでしょうか?
次のような対応を提案します。
①まじめに真摯に向き合うのをやめること。
②会社側に落ち度がなければ、絶対に謝らない、毅然とすること。謝ると味を占めて 何度もカスハラを繰り返します。
③無視するという選択肢も持つこと。
④周りに会社の仲間がいる場合は味方してもらう。人数で対抗です。特に女性が対応 していて客が男性の場合は恐怖を感じますので、男性に加勢してもらいましょう。
⑤警察に相談することをためらわず、そのことを客に伝えること。
⑥対応を個人任せにするのではなく、会社が前面に出ること。
書いていて気分が暗くなります。「言うは易く行うは難し」です。話の通じない相手に向き合うわけですから、カスハラ対応は非常に難しいです。
2023年2月9日現在、北海道議会では全国初のカスハラ防止条例の制定を検討しています。ヒグマの駆除で行政機関に苦情が殺到して通常の業務に支障がでたのがきっかけですが、北海道の人出不足解消のためには職場環境を整えるのが必要と判断したようです。ヒグマのおかげです。カスハラの範囲や罰則の有無などを検討するとのことですが、どのような内容になるのか期待したいです。
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