医師が受けるハラスメントってどんな内容?

厳しい実地訓練と指導を受けてやっと一人前になれる職業、例えば、自衛隊・警察・消防などでは、上司からの指導が行き過ぎればパワハラになります「いじめ対策推進法」という法律があります。社会人ではなく、児童・生徒を対象とした法律です。この法律の特徴は「被害者の心情を重視し、加害者の悪意の有無は考慮しない。」ということです。加害者が悪気はなかったと言っても、被害者が傷ついていればいじめになるのです。逆に加害者に悪意があっても、被害者が気にならなければいじめにはなりません。社会人のハラスメントも同じことが言えます。被害者が指導だと感じていればパワハラにはなりません。境界線を引くのが難しい職場と言えるかもしれません。

 

実は医師もそのたぐいの職業なのです。研修医を経て一人前の医師になるまでに、先輩医師からの教育・指導が行われます。研修医とは「医師免許取得後に大学病院または臨床研修指定病院において、7つの診療科を2年以上かけて回り、研修を行っている時期にある医師」のことを言います。先輩医師が研修医や後輩医師に対して優位に立つことになるのでパワハラが発生します。2020年10月にm3.com(医療系の情報サイト)の会員の医師を対象にしたアンケート調査の結果(回答者は243名)では、パワハラを受けたことがある医師は55.2%に上り、最も多いのは「精神的な攻撃」で38.2%は、次いで「過大な要求」で23.9%でした。下記にその一部を転載します

 

【精神的な攻撃】
・研修医の時のこと。当直明けの申し送りで、救急部の部長から「プレゼンがなってない!話にならん!」と、持っていたファイルを机に叩きつけながら、スタッフステーションで罵倒された。(30代男性/消化器科)・
・初期臨床研修医として働き始めて3カ月たった時、看護師に、多くの人が見ている前で長時間叱責された。人格否定もされた。一方的にあることないことを責められて、こちらが泣いても止まらなかった。(30代女性/内科)
・執拗なメールがあり、細かい指摘をして、どのような理由で何をやったのかを、ねちねち書いてくること。(50代女性)
【過大な要求】
・長時間労働が多く、1か月に100時間以上の時間外労働に加えて月4回の当直があり、1年の半分以上は体調不良であるが、当直をしない医師から「まだ倒れていないためもっと働け」と言われた。(30代女性/腎臓内科)
・研修医時代、まったく適切な指導を与えられないまま過剰な業務を押し付けられた上、物理的に無理だと断るとその後のカンファレンスにおいて些末で意味不明な質問を執拗に繰り返し、答えられない、あるいは答えないと罵詈雑言を浴びせられた。(40代男性/小児科)
【人間関係からの切り離し】
・仕事を与えられず、医局で椅子に座って過ごしていた。(40代男性/放射線科)
・外科医だったのに麻酔科の仕事を余儀なくされて、数年間は麻酔医として仕事をした。昨年から麻酔医を雇用して仕事がなくなり病棟と外来の勤務を言われたが、常勤医を外された。(60代男性)
・くびを言い渡された。担当患者がいなくなった。(60代男性/リハビリテーション科)
【身体的な攻撃】
・研修医だった頃、自分のミスを怒られる時に殴られた。(40代男性/内科)
・顔に紙カルテを投げつけられる。(40代男性/耳鼻咽喉科)
・後輩の前での罵倒、まわし蹴り。(40代男性/救急医学科)
【個の侵害】
・人の交際関係をべらべら言いふらす。(30代男性/消化器科)
・病棟で好意を持った看護師の名前を言わされ、その看護師に私が好意を持っていることを勝手に暴露された。また、バイト代を含めた年収を言うように強制され、答えたくないとはぐらかすと「君は秘密主義だ。それはよくない!」と結局言わされた。(50代男性/呼吸器科)

 

内容がいろいろとすごいですね。医師は社会的には知的で冷静だと勝手に思われているようですが、実際は違ますね。ハラスメントは、学歴や社会的地位とは関係なく発生するということですね。アンケートでは対処の方法も聞いています。「特に何もしなかった」が21.6%、次いで「職場を変えた(異動・休職・退職など)」が15.2%でした。弁護士や労働基準監督署に相談した人も数%おり、一般の企業と変わらないですね。ハラスメントが原因で医療ミスを起さないか心配になります。

 

⇒(次のコラムへ)アメリカでは患者から研修医へのハラスメントが多いらしい

2022年09月29日